名前のひみつ 9
ゲドの将来を案じたオジオンが、彼の意志を尊重して、内海の中心にあるローク島の学院へ彼を修業に送りだすことにした時、ゲドが乗る船の名も黒影号です。
また、ゲドが学院の入口で、真の名まえを名のって、入れてもらうことができた時に、朝の光はたしかに背後からさしていたのに、彼のうしろから一つの影が続いてしのびこみます。
その上、学院の中央にある噴水のかたわらで、学院長の大賢人ネマールに出会った時に、ネマールに見つめられ、彼のつぶやく声を聞いているうちに、ゲドは一瞬、見も知らぬ荒野でいくつもの影に囲まれて立つ自分の姿を見たように思います。
大賢人ネマールの目には、もちろんその時、この若い英雄の卵のような青年のもつ影が、よく見えていたことでしょう。
しかし、彼はなにも言いません。
若き英雄に影はつきものだからです。
おそらく、その影が大きければ大きいほど、ゲドの才能もまた豊かであるかもしれません。
ゲドがその影の恐ろしさを若くしておぼろげながら知っていたことは、彼がただの人ではないことを示しています。
そしてゲドは冒険家で、好奇心に盗れ、勇ましく、血気にはやった一人の英雄から、真の賢人に成長するためには、自らの影の形を明らかにし、その名まえを知らなければなりません。
すべてのものには生命のこもった真の名まえがあるのです。
それが日本では《コトダマ》とよばれるものでしょう。