ある男の生涯 3
この地でミロス・クロフタはやりくりと保護だけの仕事に明け暮れた世界を去り、企業家の世界に入っていくことになります。
ここには以前彼に製紙機械を売り、彼の紙を買いつけていたイタリア人たちがいました。
クロフタはマリアたちの来る前から、彼らのつてを頼って、製紙業界のコンサルタントを始めていました。
ヴェヴチェの工場のイタリアの販売代理店だったオフィスに移り、床の上で寝、大衆食堂で貧しい人びとにまじってマカロニを食べる暮しをつづけながら・・・
彼はかつての勉学と工場見学の歳月の間にできた商売上のあらゆる縁故と接触を図りました。
また戦争直前にスウェーデンに出かけた時に興味を引いたある発見についてもその追跡を始めました。
スウェーデンで、彼はアドカという会社を発見したのでした。
汚染物質を沈殿させるのではなく浮遊させるという、それまでとは違う浄水装置を作っている会社です。
製紙工場で使うとなるとその装置は小さすぎて効率が悪いが、彼にはその将来性がすぐに読みとれました。
戦争に阻まれてその原理を応用することこそできなかったのですが、これはリュブリヤナ川の排水問題を解決できると思われたのです。
浮遊法はまったく新しい発泡式浄水方法です。
従来は異物粒子が静止状態の水中に沈むのを待って、それをタンクの底からかき集めていました。
しかし浮遊法の方が流動する水中でも早く異物を泡状にして表面に浮かび上らせることができ、それをすくい出したり、吐出させるのも早い。
理論上では仕事が沈殿法の十倍も早いのです。